コラム
AIを活用した異常検知とは?メリットとシステム導入成功のコツを解説!

製造現場で機械・設備の異常をAIが検知し、故障を未然に防ぐ「AI異常検知システム」。近年、導入企業が増加しており、今後もその傾向は続くと予測されています。
この記事では、AI異常検知システム導入のメリット、導入成功のコツ、そして製造業におすすめのAI異常検知システム『AI異常予兆検知システム構築サービス「SAILESS」の導入事例を紹介します。AIを活用した異常検知システムの導入を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
目次
1. AIによる異常検知とは
AIによる異常検知とは、AI(人工知能)を用いて、機器や設備などの正常な状態と比較し、異常な状態を検知する技術です。具体的な学習方法には、正常な状態と異常な状態のデータセットを事前に用意し、AIに学習させる「教師あり学習」と、正常な状態のデータのみを用意し、AIに学習させる「教師なし学習」があります。
熟練作業員であっても、目視によるチェックでは異常の発見に遅れが生じたり、見逃したりしてしまう可能性があります。AIによる異常検知では、データに基づいて一定レベルでの検知が可能となるため、作業員のスキルによる検知のばらつきを解消できます。
AIによる異常検知の導入によって、機器・設備の動作不具合や緊急停止などの突発的なトラブルを事前に予測・防止することが可能となり、業務効率化と作業員の負荷軽減につなげることができます。
2. AIによる異常検知3つの手法
AIが異常を検出する手法はいくつかありますが、大きく分けると以下の3つです。
- 外れ値検出
- 変化点検出
- 異常部位検出
それぞれ得意な検出内容や使われるシーンが異なります。ここでは、それぞれの違いや製造現場での検出手法を採用するメリットを解説します。
なおAI異常検知システム内で使われる機械学習モデルは、こちらで紹介していますのでご覧ください。
外れ値検出
外れ値検出とは、正常データから外れたデータを検出する方法です。不慣れな作業員によるシステムの管理・入力ミスを検出したい場合や、機械モーターの異常音を検出する場合も役立ちます。
外れ値検出ではかなりの量のデータを処理する必要があるため、多くの時間と労力がかかります。一方AIでの異常検知の場合では、大量のデータを迅速に処理できるためベテラン作業員の目視作業よりも素早い検知が可能です。
AIによる外れ値検出を活用すると作業員のケアレスミスを早期に検出し、大きな問題へと発展するリスクを回避できます。
変化点検出
変化点検出とは、時系列データの数値が急激に変化した場所を特定しその変化点を検出する方法です。
例えば不良品の数が急激に増えた場合に、稼働中の製造機器から得られる時系列データのどの部分が変化したのかを検知して、異常が発生したポイントを発見できます。変化点検出・外れ値検出ともに、膨大な量のデータのなかから異常を見つけ出す必要があるため作業員による確認には限界があります。
一方AIによる変化点検出では、高速に時系列データを処理し変化点を確実に検出できるため、変化が生じた原因のスムーズな解明が可能です。
異常部位検出
異常部位検出とは、画像データに対して正常状態と大きく異なる部分があった場合にその箇所を異常部位として検出する方法です。例えばネジなどの細かい部品や完成製品の画像データから不良品を探す際など、製造現場の画像診断でよく使われます。
また、製造ライン上だけではなく大きなけがや事故につながる作業員の異常行動や、製造現場での不審者検出にも活用されています。作業員の確認では見逃されがちな小さなキズや汚れでも、AIの異常部位検出ではしっかりと検出可能です。そのため機器の不具合で生じる事故を最小限に抑えられます。
3. AI異常検知導入によって得られるメリット
異常検知を導入することで、以下のようなメリットが得られます。
- 人為的なミスによる誤検知・見逃しの防止
- 業務効率の向上
- 今まで気づけなかった異常の検知
- 未知の異常の検知
AIによる異常検知システムの導入により、製造現場におけるさまざまな課題を解決し、生産性・品質・安全性を向上させることが可能です。
AIによる異常検知のメリットについて、詳しく解説していきます。
人為的なミスによる誤検知・見逃しの防止
AI異常検知は、人為的なミスによる誤検知や見逃しを防ぐことができる強力なツールと言えます。作業員のコンディションや知識に左右されず、24時間365日、一定の精度で異常を検知することができ、ケアレスミスや伝達ミスによる検知漏れも最小限に抑えることができます。特に、人為的なミスが多く発生している工程への導入は効果的であり、検知精度の向上、再発防止、作業員の負担軽減、生産性の向上、品質向上など、さまざまなメリットをもたらします。
業務効率の向上
AIによる異常検知を導入することで、製造工程における人材配置の最適化、技術継承の効率化、トラブルの再発防止、根本的な問題解決を実現し、生産工程全体の業務効率を飛躍的に向上させることができます。
具体的には、単純作業の自動化による人員配置の最適化、熟練作業員の技術継承時間の削減、24時間365日の安定した検知精度による人為的ミスの防止と再発防止、データ分析に基づいた異常発生原因の特定による根本的な問題解決などがあります。
今まで発見できなかった異常の検知
AIによる異常検知を利用すると、今まで発見できていなかった異常の検知も可能になります。熟練作業員の目視検査でも見逃してしまうような未知の異常を、あらゆるデータを多角的に分析し、客観的に検知することで、不良品の削減、予知保全、コスト削減、新製品・新技術の開発など、生産技術の向上に大きく貢献します。製造現場を強力にサポートするツールであると言えるでしょう。
未知の異常の検知
AIによる異常検知では今までに経験のない異常・トラブルを発見できます。
作業員による異常検知では過去に起こった不具合・故障などの経験をもとに異常を検知するため、経験のないトラブルを発見するのが困難です。AIによる異常検知では、従来の作業員による経験則に基づく検査では発見できなかった未知のトラブルを、過去のデータに頼らず客観的に分析することで高精度な検知が可能です。そのため、初めて起こるトラブルを高確率で発見できます。AIはデータから規則性や相関性を導くのが得意なため、質の高いデータを用意できれば未経験の異常でも検知できます。
4. AI異常検知システム運用開始までの流れ
ここでは、AI異常検知システムの運用開始までの流れについて解説します。流れは以下の5ステップです。
- 1.データを収集する
- 2.検知用のセンサーを選定する
- 3.数値化したデータをもとにデータセットを作成する
- 4.AIにデータを学習させる
- 5.運用をスタートする
AI異常検知システムの運用をスムーズに始めるためにも、それぞれの内容をチェックしておきましょう。
STEP1:データを収集する
AI異常検知システムの精度を確立するために、まずは適切な量と質のデータを集めます。例えば機器の温度や速度などの時系列データや、製品がさまざまな角度から撮影された画像、異常発生時のデータなどです。
製造機器に関して豊富な経験と知識を持つ作業員は、正常な動作と異常な動作の区別を容易に行うことができます。そのため、彼らに協力を依頼することで、高品質な正常データを効率的に収集することができます。
知識・経験が豊富な作業員がいない場合や、データ収集作業を自動化したい場合は、データ収集用センサーを導入する方法もあります。センサーを設置することで、24時間365日、継続的にデータを収集することができます。センサーを使用する場合には、収集したデータに欠損や誤りがないか、目的とする異常検知システムに必要なデータかどうかを確認しましょう。
STEP2:検知用のセンサーを選定する
AIによる異常検知には、異常を検知するための検知用センサーの導入が必要です。
センサーの種類は多岐にわたり、それぞれ異なる特性を持っています。対象となる異常を正確に検知するために、適切なセンサーを選択する必要があります。
例えば温度異常を検知したい場合は温度センサーや赤外線センサー、音異常を検知したい場合は音響センサーやマイクロホンなどを選定します。
検知用センサーの選定には専門知識が必要となります。メーカーの担当者に相談したり、システムインテグレーターに依頼したりするなど、専門家の協力を得ることを推奨します。
STEP3:数値化したデータをもとにデータセットを作成する
次に、収集され数値化されたデータをもとに、AIの学習用データセットを作成します。このデータセットの質は異常検知の精度を大きく左右するため、慎重な作業が求められます。
時系列データの場合は、関係性が薄い数値を削除するなどしてデータの加工を行います。例えば、時間帯や曜日によって大きく変動するようなデータは、異常検知に悪影響を及ぼす可能性があるため、除去することで精度向上に繋げることができます。
画像データの場合は、画像の色補正などを行い、データの調整を行います。画像の明るさやコントラストなどが適切でない場合、AIが誤った特徴を学習してしまう可能性があります。そのため、画像データ全体を統一的な見え方に調整することで、精度向上を図ることができます。
学習用データセットには、判断が難しい曖昧なデータも一定数含める必要があります。しかし、あまりにも多くの曖昧なデータを含めてしまうと、AIの学習が阻害され精度低下を招く可能性があるため注意が必要です。
STEP4:AIにデータを学習させる
AIの機械学習工程はベンダー側で学習モデルを選定し、以下の3つの主要な手法を用いて進められます。
- 教師あり学習
- 教師なし学習
- 半教師あり学習
「教師あり学習」は、正常データと異常データの両方を含む十分な量のデータを用いる手法です。この手法は、よく発生する異常に対して高精度な検知が可能であるという特徴があります。
正常データのみで学習を行う場合は「教師なし学習」を選びます。異常データが用意できない場合や、データ収集にコストがかかる場合に有効です。教師なし学習は、異常データがない状態でも学習を進められるため、学習データの収集が容易になります。しかし、教師あり学習と比較すると、精度が低くなる場合がある点に注意が必要です。
異常検知で使われる具体的な機械学習モデルは、こちらで詳しく解説しています。ぜひご覧ください。
STEP5:運用をスタートする
AIの学習が完了したら運用を開始します。AIの学習を進めながら、小規模な環境でパイロット運用を行い、問題点を洗い出します。その後、本番環境に移行し、システムの機能を使って、検知率、誤検知率、異常検知までの時間、異常判別根拠などを分析し、システムのチューニングや運用方法の見直しを行います。
また、システム稼働状況、データ収集状況、モデルの精度、アラート発生状況などをモニタリングし、定期的に再学習を行うことで、新たな異常にも対応できるようになり、精度向上につなげます。
さらに、異常検知で得られたデータを分析し、設備点検・修理の優先順位付け、予防保全活動の強化、運用ルールの見直し、製品・サービスの品質向上などの改善につなげることで、より正確な異常検知を実現します。
5. AI異常検知システムの導入を成功に導くコツ

異常検知システムの導入を成功に導くコツは、主に以下の通りです。
- データを選別する
- システムを管理できる人材を確保する
AI異常検知システムの導入前の準備として、データの選別と人材の確保は重要です。データの選別はAIの精度に直結します。またAI異常検知システムを長期的に運用するうえでは、システムの管理者が必要不可欠です。
システム導入を成功させるコツについて以下で詳しく解説します。
データを選別する
AIが高いパフォーマンスを発揮するためには、膨大なデータの適切な選別が不可欠です。学習データの質が向上すれば、異常検知の精度も飛躍的に高まります。
例えば、正常状態の製品がはっきりと写っている画像データやパターン化しやすい時系列データは、AIが認知しやすいため、より精度の高い検知が期待できます。
データの選別は、収集されたデータをAIが効率的に学習できるよう加工・整理することを目的としています。そのためには、専門知識と経験を備えた作業員による入念なチェックが不可欠です。
システムを管理できる人材を確保する
AI異常検知システムの導入・運用を成功させるためには、AIシステムの専門知識と管理能力を備えた人材が不可欠です。
専門知識がないと、システム導入後のモニタリングや調整が適切に行えず、改善につながらない可能性があります。加えて、誤検知が発生した場合にも、システムを管理できる人材を確保しておくことで迅速な対処が可能となり、機器・設備の停止を未然に防ぐことができます。
システムを導入する際は、社内研修などを活用し、作業員のシステム理解を深め、管理できる人材を育成することが重要です。
6. AI異常検知システムの導入企業例
AI異常検知システムは、さまざまな企業で導入されています。
例えば、とあるセメント工場では、「キルン(セメント焼成炉)」に対して、プラント情報マネジメントシステム(PIMS)を基盤とした異常検知アルゴリズム「SAILESS-HS」を導入しました。導入前はキルンの不具合や異常を検知できず、製造ラインの緊急停止によって生産性の低下や品質低下が起きていました。
そこで宇部情報システムの異常予兆検知システム構築サービス「SAILESS(サイレス)」の導入を決めました。「SAILESS」は正常時のデータを使用してシステムを構築できるほか、ユーザでのAI再学習が簡単にできるサービスです。「SAILESS」導入後は異常を早期発見できるようになり、生産ラインの緊急停止を回避することに成功し、生産性の向上・品質低下の防止につながりました。
7. AI異常検知システムで製造工程の効率化を目指そう!
AIによる異常検知は機械や設備、製品などの異常をいち早く検知できるため製造現場に最適なシステムです。
例えば製品の外観検査にAI異常検知を導入することによって、写真や動画データをもとに良品・不良品の検知が可能になります。AIによる異常検知を導入することで、業務の効率化が期待でき人件費等の削減にもつながります。
異常検知システムの導入を検討している方には、さまざまな検知アルゴリズムの導入実績がある「SAILESS」がおすすめです。「SAILESS」を導入し、製造工程の効率化と品質向上を実現しましょう。
8. AIを活用した異常検知Q&A
AI異常検知について、よくある質問をまとめました。
Q. 異常検知の代表的なモデルについて教えてください
A. 代表的なモデルは以下の通りです。
- ホテリング理論
- k近傍法
- LOF法
「ホテリング理論」は、統計的な異常値を見つける場合に利用する古典的なモデルで外れ値を検出するのに役立ちます。
「k近傍法」は、時系列のデータのなかからどの距離にあるものが異常なのかを定めそのルールに沿って判断するため、時系列データのなかの正常データ・異常データの分類に最適です。
「LOF法」は、データ集合のなかでほかのデータとどれだけ距離が近いかで正常・異常を判断します。k近傍法でうまく異常を検知できなかった場合にLOF法を試します。
Q. AI異常検知の活用事例はありますか?
A. AI異常検知の活用事例には、以下のようなものがあります。
- 設備故障の予兆検知
- 製造ラインの不具合検知による不良品の発見
- 保全業務の自動化
設備故障の予兆検知を導入すると、設備の異常や故障が発生する前に点検やメンテナンスを行うことができ、機器の停止を未然に防ぐことができます。これは、生産ラインの稼働率向上や予期せぬコスト削減に繋がります。
また、製造ラインに設置した検知用センサーで取得したデータをAIで分析することで、不具合の発生要因を特定し、早期に発見することができます。これにより、不良品の流出を抑制し、品質向上とコスト削減を実現できます。
AIによる異常検知は、保全業務の自動化にも活用できます。設備の異常を自動的に検知することで、必要なタイミングで適切な保全作業を実施することができ、作業員の負担軽減や効率化に繋がります。
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