コラム
予知保全とは?製造業なら導入したい「AIを活用した保全」を解説!

予知保全とは、設備や機械の劣化や障害を事前に検知して保守を行うことです。設備の稼働率向上やメンテナンス費用の削減などのメリットがあるため、多くの製造業が導入を検討しています。
この記事では、予知保全の概要やメリット・デメリット、AIを利用した予知保全導入の流れについて解説します。後半には効率的な導入方法も紹介しているため、導入を検討している方はぜひ最後までお読みください。
目次
1. 予知保全とは
予知保全とは、製造ラインが安定した稼働を続けるために実施する保全方法の一つです。製造業にとって設備の稼働率は収益に直結する重要な指標であり、安定した稼働率を維持することは極めて重要です。
昨今ではIoT技術やAIの進化などを背景に、従来の保全方法と比べて効果的・効率的な予知保全に注目が集まっています。
予知保全の定義と目的
予知保全とは、設備の劣化や故障を事前に予測し、適切なタイミングで保全を行うことです。具体的には、IoTセンサーやAIなどの技術を活用して設備を監視し、振動、音、温度、圧力などのデータを収集・分析することで、異常兆候を検知します。そして、その兆候に基づいて、部品交換や修理などの保全作業を実施します。
状態基準保全は、設備の故障による生産停止を未然に防ぎ、生産性を向上させることができます。従来の予防保全とは異なり、設備の状態を監視することで、本当にメンテナンスが必要なタイミングでのみ保全を行うことができます。
予防保全との違い
予防保全と予知保全は、どちらも設備や機械の故障を未然に防ぐための保全方式ですが、それぞれ異なる考え方と特徴を持っています。
予防保全は、時間基準保全(TBM)に基づいており、設備や機械の劣化状況にかかわらず、一定期間ごとに保全作業を実施します。一方で予知保全は、状態基準保全に基づいており、設備や機械の状態を監視し、故障の兆候を検知したら保全作業を実施します。
予知保全は異常を検知する度に随時実施する一方で、予防保全は予定を立てて一定の周期で実施するため、製造ラインのスケジューリングが容易です。ただし、設備の状況にかかわらず実施するため非効率になる点や、保守期間外の劣化や障害には対応できない点がデメリットです。
それぞれの保全の特徴まとめ
保全方法にはもう一つ、事後保全があります。予知保全・予防保全・事後保全の特徴は、以下の通りです。
種類 | 予知保全 | 予防保全 | 事後保全 |
---|---|---|---|
内容 | 障害の兆候を感知して実施する保全 | 定期的に実施する保全 | 障害発生時の保全 |
目的 | 障害の未然防止 | 障害の未然防止 | 停止設備の早期回復 |
保全タイミング | 機器の状態に応じて | 定期的な周期 | 障害の発生時 |
メリット | 効率的・効果的な保全が可能 | 計画的な保全が可能 | 障害がなければ対処不要 |
予知保全の目的は、予防保全と同様に「障害の未然防止」であり、停止した設備を早期に回復させる事後保全とは異なります。また、予知保全は障害により大きな修理が発生する前に保守をするため、効率的かつ効果的な保全が可能です。
2. 予知保全が製造業で導入される背景

予防保全や事後保全だけでなく、予知保全が製造業で導入されつつある背景には、以下のようなものがあります。
- 事後保全や予防保全の限界
- IoTの発達
- AI技術の進歩
製造業では、稼働率が業績に直結するため、予知保全は稼働阻害となる障害発生を防ぐために極めて重要です。
ここからは、3つの背景について解説します。
事後保全や予防保全の限界
予知保全が製造業で注目される背景として、事後保全や予防保全には限界が挙げられます。
グローバル化・デジタル化の進展により、製造業における競争は激化し、生産性向上や効率化が急務となっています。それに伴い、保全業務にも高い水準が求められています。
事後保全は、障害発生後の対処となるため、生産性低下を未然に防ぐことはできません。予防保全は、定期的な保守により障害を未然に防止しますが、本来不要な保守・部品交換により効率を低下させる可能性があります。
一方、予知保全は、必要最低限の保守で対応できるため、生産性向上と効率化の両立を実現できます。
IoTの発達
製造業で予知保全の導入が進んでいる背景には、IoTの発達も挙げられます。
IoTとは「Internet of
Things」の略語で、日本語では「モノのインターネット」と訳され、私たちの身近にあるスマホやタブレットはもちろん、あらゆる電化製品がインターネットを通じて情報伝達できる技術です。
予知保全では、製造ラインの各設備にIoTセンサーを設置することで、振動、温度、圧力など、さまざまな情報(データ)をインターネット経由で一元管理することが可能になります。
従来は手作業で収集していた膨大なデータを、IoT技術により効率的に収集できるようになったことが、予知保全の導入検討が進んでいる理由の一つです。
AI技術の進歩
製造業における予知保全導入が進んでいる背景には、AI技術の革新的な進歩があります。
IoTの普及により、製造ラインの稼働状況や設備の状態をリアルタイムに把握できるようになりました。しかし、取得した膨大なデータから異常予兆を的確に抽出することは、専門知識や経験が必要です。また、専門家といえども人手による分析には時間とコストがかかります。
AI技術を活用することで、IoTセンサーから収集された膨大なデータや過去の障害履歴などを自動的に分析し、設備の劣化状況や故障の兆候を逃さず検知することができます。AIによる高度な予知保全システムの導入により、予知精度が向上し、予期せぬ設備停止を未然に防ぐことが可能になりました。これが、製造業において予知保全の導入検討が進んでいる大きな理由の一つです。
3. 予知保全を導入する5つのメリット

予知保全には、事後保全や予防保全にはない以下のようなメリットがあります。
- 故障による停止回数を削減できる
- 設備のメンテナンス費用を削減できる
- 保全業務に関する人件費を抑制できる
- 保全技術者の経験に左右されない
- 製品の品質が安定する
ここからは、予知保全を導入する5つのメリットについて解説します。
故障による停止回数を削減できる
予知保全には、故障による停止回数を大幅に削減できるという大きなメリットがあります。
予防保全は、部品の耐久性や利用頻度に基づいて保全時期を決定するため、一定の効果は期待できます。しかし、部品破損や故障は突然発生する場合もあり、予防保全だけではすべての障害を防ぐことはできません。そのため、予知保全に比べて事故による停止回数が増加してしまう可能性があります。
一方、予知保全は、設備の状態を監視し故障の兆候を検知したらすぐに修理を行うため、故障発生を極限まで抑えることができます。結果として、製造ラインの事故による停止回数を削減することができます。
設備のメンテナンス費用を削減できる
予知保全では、設備のメンテナンス費用が削減できる点も特徴です。
従来の予防保全は、定期的に部品を交換します。劣化状況や破損の有無に関係なく部品交換を行うため、無駄に交換してしまう可能性があります。、本来不要な修理や保守にかかる時間やコストも無視できません。
一方、予知保全は、設備の状態を監視し必要なタイミングで必要な部品交換を実施するため、必要最低限の作業・時間・コストで済みます。結果として、従来の予防保全に比べて保守にかかる費用を大幅に削減することが可能となります。
保全業務に関する人件費を抑制できる
予知保全では保全業務にかかる人件費の抑制も可能です。
事後保全では、障害発生後に対応するため不測の事態に備えて常時人員を配置する必要があります。定期的な点検や部品交換を行うため、障害の可能性が低い場合でも必要以上に人件費が発生します。
一方、予知保全は、IoTとAIを活用して障害の兆候検知・判断するため、必要な時に必要な人員のみを配置することができます。また、障害箇所や状況を事前に把握できるため、製造業務などの作業効率が向上し、人件費を抑制することが可能です。
保全技術者の経験に左右されない
予知保全にAIを活用する場合、データ分析に基づいて判断を行うため、保全技術者の経験に左右されない点もメリットです。
従来の保全方法では、熟練の技術者が施設や機械の異常を判断していました。特定の人にしか対応できない点や後継者への継承が難しい点、また、設備や機械の複雑化・高度化により、従来の経験や知識だけでは判断が困難になってしまう点が課題でした。
一方、AIによる予知保全であれば、IoTセンサーなどから収集したさまざまなデータをAIが分析することで、技術者の熟練度に関わらず精度の高い点検ができます。さらに、AIに技術者の経験や知識を学習させることで、人から人への継承よりも効率的にノウハウを蓄積・活用することが可能になります。
製品の品質が安定する
予知保全は、製品の品質安定にも貢献します。
予防保全では、定期的にメンテナンスを実施しますが、通常時の稼働データを監視していないケースが多くあります。そのため、設備や機械が通常と異なる兆候を見せても、そのまま稼働させてしまう可能性があり、障害は発生しなくても、製品品質に悪影響を及ぼす可能性があります。
一方、予知保全であれば、AIが人間では気づかない設備や機械のわずかな異常も発見できるため、早期に適切な対処が可能となり、障害による製造ラインの停止だけでなく、製品品質の低下も未然に防止する効果があります。
4. 予知保全を導入する2つのデメリット
予知保全にはさまざまなメリットがある一方で、以下のようなデメリットもあるため注意が必要です。
- 導入コストがかかる
- システム構築のノウハウが求められる
予知保全導入を検討している企業担当者にとって、メリットだけでなくデメリットも理解しておくことが重要です。ここでは、予知保全を導入する際に直面する2つのデメリットを解説します。
導入コストがかかる
予知保全は、IoT機器やAIシステムの導入が必要となる場合があるため、初期費用がかかる点がデメリットとなります。従来の保全方法と比べて、IoTセンサーによるリアルタイムなデータ収集とAIシステムによる高精度な障害予知が可能となり、人手では実現できない高度な保全を実現できます。
しかし、IoTやAIシステムの導入には、それなりのコストがかかります。一般的には、ソフトウェアとエンジニアリング費用を含めて、1,000万円以上の費用が発生すると言われています。
導入コストを抑えたい場合は、「SAILESS(サイレス)」のような異常予兆検知システム構築サービスの利用も検討できます。導入を検討する前に、目的を明確化し、費用対効果を十分に検討することが重要です。
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システム構築のノウハウが求められる
予知保全の導入には、システム構築に関する専門知識や技術が必要となるため、これがデメリットの一つとなります。
予知保全をシステム化する際には、以下のような準備が必要です。
- IoTセンサーからデータを収集・送受信するためのネットワーク環境構築
- 取得したデータの安全かつ効率的な管理・保存
- データを分析するAIモデルの構築
これらのシステム構築には、高度な知識やスキルが求められます。社内に十分なリソースがない場合は、外部の専門業者にシステム構築を依頼することも必要です。
5. AI予知保全導入の流れ

近年、予知保全の分野において、AIが注目を集めています。AIを活用した予知保全システムを導入することで、従来の保全方法では難しかった高精度な故障予知が可能となり、生産性向上やコスト削減につながります。
ここでは、AIによる予知保全システムを導入するための4つのステップを解説します。
- STEP1:課題の明確化・データの準備
- STEP2:PoCによるAI(機械学習)モデルの検証
- STEP3:予知保全システムの構築
- STEP4:運用開始
STEP1:課題の明確化・データの準備
AI導入の最初のステップは、課題の明確化とデータの準備です。まず、現状の課題と予知保全導入の目的を明確にすることが重要です。
- 設備故障による課題:故障頻度、平均修理時間、生産停止時間、損失額など
- 保全コスト:定期点検費用、修理費用、部品代など
- 設備の重要度:生産ラインにおける重要度、代替設備の有無など
- 導入によって期待される効果:故障予知精度の向上、保全コストの削減、生産性の向上など
これらの課題を明確にすることで、AI導入の必要性や費用対効果をより客観的に判断することができます。
課題の明確化ができたら、AIモデルの学習に必要なデータを準備します。データの種類や量は導入対象となる設備やシステムによって異なりますが、一般的には以下のデータが必要となります。
- 過去の故障履歴:故障日時、故障箇所、原因、修理内容など
- 設備の稼働状況:稼働時間、稼働率、負荷状況など
- センサーデータ:振動、温度、圧力、音響など
データの品質はAIモデルの精度に大きく影響するため、高精度なデータ収集と管理体制の構築が重要です。
STEP2:PoCによるAI(機械学習)モデルの検証
必要なデータが準備できたら、PoC(Proof of
Concept:概念実証)と呼ばれる実証実験を行い、AIモデルの精度や有効性を検証していきます。
PoCは、AI導入において重要なステップです。PoCを適切に行うことで、導入後のトラブルを回避し、導入効果を最大限に高めることができます。
STEP3:予知保全システムの構築
PoCで課題解決に十分な精度を持つ予測モデルが構築できたら、次は本番稼働のための予知保全システムを構築します。システム構築において最も重要となるのが、組織全体で利用できるシステムにするということです。システムは導入することが目的ではなく、実際に活用することが本質です。そのためにも、組織に所属する人が使いやすいシステムを作ることが重要です。
故障予知、異常検知、通知機能など、必要な機能を備えたシステム構築を目指しながらも、システムを利用する従業員の意見を収集し仕様に反映することで、使いやすく効果的なシステムを構築することができます。また、いきなり全設備に導入するのではなく、一部の製造ラインから導入し、成功事例を積み重ねていくのも有効な方法です。
STEP4:運用開始
予知保全システムの構築が完了したら、いよいよ運用を開始します。運用にあたっては、従業員全体に丁寧なレクチャーを行い、しっかりと利用してもらえる体制を整えましょう。
また、予知保全システムは構築したら終わりではなく、より良いシステムになるように継続的に改善していくことが大切です。運用した結果を定期的に評価し、必要に応じてAIの予測モデルの再学習を行い、精度の高い予知保全システムにしていきましょう。
6. AI予知保全を効率的に導入する方法とは
AI予知保全を導入するには、以下のような方法があります。
1. 自社内のリソースでシステム構築する
自社内に必要な知識と技術を持つ人材が揃っている場合は、システムを自社内で構築することも可能です。
メリット:導入コストを抑えられる可能性がある
デメリット:人材育成やシステム開発に時間がかかる、専門知識や技術が必要
2. AI人材をスポットで雇用する
必要な期間だけ、AI人材をスポットで雇用する方法もあります。
メリット:スピーディーに導入できる
デメリット:人材の確保が難しい、人件費がかかる
3. 外部のシステム会社に委託する
AI予知保全システムの構築や運用を、外部のシステム会社に委託する方法です。
メリット:専門知識や技術を持つ人材が担当するため、高精度なシステムを構築できる、導入から運用まで任せられる
デメリット:導入コストがかかる
最適な導入方法は、自社の状況やニーズによって異なります。
- 自社内に必要な人材が揃っている場合は、1.自社内のリソースでシステム構築する
- 迅速な導入が必要な場合は、2.AI人材をスポットで募集する
- 専門知識や技術に自信がない場合は、3.外部のシステム会社に委託する
AI予知保全の導入には課題もありますが、適切な方法を選択することで効率的に導入することができます。
7. AI予知保全なら異常予兆検知システムの導入がおすすめ!

予知保全システムの構築には、AIやデータ分析に関する専門知識を持つ人材が必要です。また、精度を高めるためには、大量かつ高品質なデータを収集・分析する必要があります。ハードウェア、ソフトウェア、人件費などのコストも発生します。
近年では、AIやIoT技術の発展により、予知保全システムの構築・運用が容易になりつつあります。また、クラウドサービスや専門業者の支援を活用することで、人材や専門知識の不足を補うことも可能です。
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「SAILESS(サイレス)」について詳しく知りたい方は、以下をご覧ください。
https://www.uis-inf.co.jp/dins/sailess/
8. 予知保全Q&A
予知保全についてよくある質問をまとめました。
Q. 予知保全の導入は難しい?
A.自社リソースのみで導入するのは難易度が高いです。
予知保全システムの導入には、AIモデルの構築、データ収集、システム運用など、専門知識や技術が必要となります。これらの全てを自社リソースで行うのは、時間的にも人的にも負担が大きいため、現実的に難しいと言えます。
これらの課題を克服するためには、外部の専門業者に委託することを検討するのがおすすめです。
Q. AI予知保全システム導入にかかる期間は?
A.約5か月程度です。
異常予兆検知システム構築サービス「SAILESS」の場合、導入期間は事前ヒアリングから始まり、約6ヵ月です。
導入までの詳細期間は以下の通りです。
導入ステップ | 期間 |
---|---|
事前ヒアリング | 1ヶ月~ |
PoC | 2ヶ月~ |
設計・チューニング、導入 | 3ヶ月~ |
短期間での導入を希望する場合は、比較的短期間で導入できる「SAILESS」を検討してはいかがでしょうか。
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