福利厚生の一環として、「新たに借り上げ社宅制度をはじめたいけど、どう進めればいいのか?」というお声をよく聞きます。
ここでは、社宅制度導入時のポイントをお話しさせていただきます。
社宅制度の有効性
一般社団法人 日本経済団体連合会(経団連)が発表している「2018年度福利厚生費調査結果の概要」に報告されているように、大企業の「住宅関連の費用」は法定外福利厚生費の約半分を占め、前年で7%以上も増加しています。
借り上げ社宅も含まれる「住宅関連の費用」は、大企業が従業員の福利厚生において重要な施策と考えているということが言えます。
また、待機児童解消のため、厚生労働省の施策として「保育士宿舎借り上げ支援事業」が実施されたのは記憶に新しいと思います。
このように、「借り上げ社宅」を福利厚生の一環として採用することは、労働条件の良さとして従業員に対する大きなアピールとなります。
人手不足に悩まされている昨今では、優秀な人材を確保するために新たに「借り上げ社宅制度」の導入を検討する企業様も増えてきています。
借り上げ社宅のメリット
借り上げ社宅制度は、福利厚生として従業員にとって大きなメリットのある制度です。
また、企業も優秀な人材の採用に繋がり、ケースによっては経費削減となる場合もあるため、住宅手当の支給から借り上げ社宅に切替えることもあります。
社宅制度導入の流れ
以下に簡単な社宅制度導入の流れを記載します。
-
導入計画を立てる
- ・予算
- 借り上げ社宅の「会社負担額」の範囲を検討し、予算を確保します。
*既に「住宅手当」を支給している場合、現在の手当と同額を借り上げ社宅の「会社負担額」とする方法もあります。
この場合、会社・従業員共に社会保険料の負担額が減額になります。 - ・スケジュール
- 導入時期を決定します。
-
社宅規程を作る(下記「社宅規程について」もご参照ください)
- ・対象社員(転居を伴う赴任社員など)
- ・対象ケース(赴任など)
- ・経費の負担割り(経費別の会社負担と社員負担)
- ・入居期限(最長○○年など)
- ・物件選定における注意事項(家賃の上限、不動産会社の指定、下見の経費など)
-
運営方法を検討する
- ・社員管理業務の洗い出し
- 契約管理・家賃支払・支払調書作成などの業務が発生します。
- ・社員管理業務担当の決定
- 社内で管理するのか、社宅代行サービスを利用するのか決定します。
社内管理の場合、社宅契約管理システムを利用する場合もあります。
社宅代行サービスは、転貸(社宅管理代行会社が貸主)を利用できる場合もあります。 - ・住宅経費の会社支払いに関する経理部門との取決め(支払いサイトなど)
- ・社員の負担額(社宅使用料)の給与控除に関する人事部門との取決め
- ・物件斡旋依頼先(不動産会社)の選定
-
従業員の同意を取り付ける
就業規則の改訂を従業員(組合)に説明し、同意を取り付けます。
- 必要書類を準備する
社宅利用申請書、社宅物件斡旋依頼書、社宅解約申請書等の必要書類を準備します。
社宅規程について
借り上げ社宅制度は、本来企業にも従業員にもメリットのある制度です。但し、極端に高い(豪華)な物件を借りる、勤務地から遠い物件を借りるなどの事象もないとはいえません。
企業には安全配慮義務があります。車通勤が主流となる地方勤務では、通勤距離が長くなると、その分事故などのリスクも高くなります。そういったトラブルを防ぐためにも、まずは社宅規程をきちんと定めましょう。
ここからは、仮の規程を利用して解説します。
借り上げ社宅規程【例】



規程項目 | ポイント |
---|---|
(目的) 第1条 この規程は、社員の福利厚生向上のため、会社が借り上げた社宅の貸与について定める。 |
会社が社宅を所有する場合もあります。 借り上げ社宅の賃貸契約は企業が結びますので、会社が指定した不動産業者を利用して入居者本人が物件を探す場合が多いです。 指定の不動産業者を利用するのは、トラブル(入居日がずれる、法外な退去費用など)のリスクを軽減するためです。 社宅は本来社員が働きやすい環境作りの一環ですから、勤務地からの距離(半径○Km以内)を決めておくこともポイントです。 |
(貸与の資格) 第2条 社宅への貸与資格は、独身者または配偶者および同居する家族がいる社員で、会社が社宅を必要と認めた者とする。 |
社宅とは別に寮を提供する場合もあります。 勤務年数が少ない社員(新卒、第二新卒、中途入社など)には、別途寮規程を設け、個人負担額を少なくするなど、配慮することができます。 |
(入居願) 第3条 社宅への入居希望者は、所定の入居願に必要事項を記入した上、所属長を経て、会社に提出しなければならない。 |
|
(入居の手続) 第4条 社宅への入居を許可された者は、会社の指定した期日までに入居しなければならない。 指定期日内に入居しない場合、入居を取消すことがある。ただし、やむを得ない事由があると会社が認めた場合は、この限りではない。 |
|
(同居人の条件) 第5条 社宅に同居できる者は、下記事項に定める。ただし、やむを得ない事由があると会社が認めた場合は、この限りではない。 (1)配偶者またはパートナー (2)子 (3)本人および配偶者またはパートナーの親 |
入居を許可された社員のの○親等以内の親族 という書き方もあります。 ダイバーシティが浸透した世の中、LGBT社員への配慮も必要です。 時代に沿って、定期的に規程の見直しを行うことも大事なことです。 |
(使用料) 第6条 使用料は月額賃借料+共益費の○○%とし、当月分給与から控除する。 月の途中で入居または退居する場合は、日割計算とする。 勤務地域及び役職により使用料の限度額を別表(1)に定める。 |
|
(費用負担) 第7条 入居者は下記の費用を負担しなければならない。 (1)電気、ガス、水道等の光熱費 (2)町内会費 (3)駐車場代 (4)その他会社が入居者負担を必要と認めた費用 |
|
(仲介料・敷金・礼金) 第8条 社宅の不動産仲介業者に支払う仲介料、家主に支払う敷金・礼金は会社が負担する。 |
転居時の、引っ越し費用を会社が負担する場合もあります。 ただし入居者の自己都合(入居後の騒音、設備が古いなど)で転居する場合、引っ越し費用は個人負担になる旨を規程に定めておく必要があります。 |
(禁止事項) 第9条 入居者は会社の許可なく、下記事項をなしてはならない。 (1)第5条により入居を認められた者以外の者を同居させること (2)社宅を第三者に転貸すること (3)建物・付属物件ならびに宅地を改変すること |
|
(退去事由) 第10条 入居者は下記事項のいずれか該当する場合、社宅を退去しなければならない。 (1)死亡・解職または退職の事由により、社員としての資格を喪失した場合 (2)故意または過失により、家屋の一部もしくは全部を毀損または焼失した場合 (3)第9条の規程に違反した場合 (4)居住目的の住居を取得した場合 (5)会社が社宅貸与の取消を必要と認めた場合 |
|
(退去の期限) 第11条 第10条により社宅の退去を命ぜられた者は、その日から〇日以内に退去しなければならない。 ただし、会社が特に必要と認めた場合は、期間を延長することがある。 |
退去事由によって、退出の期限を異なって定める場合もあります。 |
(損害賠償) 第12条 入居者は、故意または重大なる過失により借用物件を減失・毀損したときは、その損害を賠償しなければならない。 |
|
(入居者の転居届出) 第13条 社宅に入居している同居者が、他に転居(死亡を含む)した場合は、そのつど会社に届け出なければならない。 |
|
(退去届) 第14条 入居者が社宅を退去するときは、あらかじめその旨、会社に届け出、建物および付属物件の点検を受けなければならない。 |
退去時に、敷金以上の原状回復費(ハウスクリーニング代や設備補修費など)の請求などのトラブルが発生することがあります。 社内管理の場合、国土交通省が公表している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を参考にし、適正な範囲の原状回復費のみが請求されるように交渉しましょう。 契約時に原状回復費に関する記載をチェックしておくことも重要です。 社宅代行サービスを利用する場合は、代行会社が交渉してくれる場合もあります。 |
付則 本規程は、20××年××月××日から施行する。 | |
別表(1)
![]() |
尚、社宅制度を導入した場合、企業には社宅管理業務(契約管理・家賃支払・支払調書など)が新たに発生します。
社宅制度を導入した場合の標準的な業務内容は、こちらからご確認ください。
その他、社宅は社会保険料の中の現物支給に該当します。
毎年提出する標準報酬月額の算定基礎届を作成する時に、考慮する必要があります。
現物給与計算の方法についてはこちら
社宅とは異なりますが、新入社員の教育期間(1~2ヵ月)など、一時的な居住場所を確保しなければいけないこともあります。
その場合、マンスリーマンションやシェアハウスを利用することで、費用をおさえることができます。